海外のコーヒーの飲み方


 アメリカ合衆国
開拓時代のアメリカでは、丈夫で持ち運びやすく、焚き火などの不安定な熱源でも問題なく使用できるパーコレータが普及していました。その頃の名残からか、最近まで大型のマグカップで比較的うすく淹れたコーヒーをたっぷりと楽しむ、という飲み方が主流だったようです。ドリッパーも使用されていますが、日本のようにしっかりと蒸らして湯量を調整しながら一杯分ずつ落とす、というよりは、大きなフィルターにたくさん粉を入れ、一度にお湯を注いで抽出する方式で使用されており、まるで番茶のように気軽に大量に飲まれているのです。ただ、セカンドウェーブ、そしてサードウェーブの影響もあり、ここ数十年ではヨーロッパや日本式の淹れ方も広まってきているようです。

ブラジル
第二位に倍以上の差をつけてコーヒー生産量第一位の座に君臨するブラジルは、国内でも大量のコーヒーが飲まれる一大消費国でもあります。実際、ブラジルの年間コーヒー消費量は、アメリカに次いで世界第二位。一人当たり消費量でも、一日7杯以上なんてデータもあるヨーロッパ諸国を追随し、第10位にランクインしています(2013年度)。そんなブラジルでのコーヒーの飲み方は、ドリップではなくエスプレッソが主流。そこへ、現代の日本人からするとちょっと信じられないくらい大量の砂糖を溶かし込んで、激甘コーヒーシロップのようにして飲むのが一般的です。これは砂糖の生産が盛んであることも関係あるかもしれません(ブラジルのさとうきびは、コーヒーと同じく生産量世界第一位)が、どちらかというとブラジル国内で飲まれるコーヒーの品質があまり高くないことが理由となっているようです。もともと世界シェア8割とも言われた時代もあるほどコーヒー産業に力を入れてきたブラジルでは、良質なコーヒー豆は貴重な外貨獲得商品としてほとんどが輸出され、国内に出回るのは低品質なアラビカ種か、低地で省力でも栽培できるロブスタ種ばかりでした。当然、エスプレッソにしてもそのままではあまりおいしくないため、そこへ大量の砂糖を入れて少しでもおいしく飲めるように工夫していたのです。現在では徹底した機械化や世界的なコーヒーの品質の向上などもあって、ブラジル国内でも良質なコーヒーが出回るようになってきているとのこと。スターバックスなど海外のチェーン店も増えてきているそうなので、今後は飲み方や消費量にも変化が起こっていくかもしれませんね。

メキシコ
コーヒー生産量はブラジル、コロンビアに続いて世界第三位のメキシコですが、消費量自体はあまり多くありません。近年では都市部に外資系のカフェチェーンなどもできてきているようですが、それでも日本の1/3程度に留まります伝統的な飲み方では、専用の陶器のポットでコーヒー粉と一緒にシナモンと黒砂糖を煮出す、「カフェ・デ・オジャ」有名で、水から煮出す、シナモンだけ先に入れてコーヒーは沸騰してから、コーヒーを加えたら少しかき混ぜてすぐ濾過するなど、地方ごと、もしくは各家ごとに独自のレシピがあるようです。また都市部のカフェやレストランでは、メキシコ版のカフェオレである「カフェ・コン・レチェ」を注文すると、グラスやカップにコーヒーだけが運ばれてきて、フロアのミルク係が大きなやかんからミルクを注いでくれるところも。ちょっとした演出でもありますが、ミルクと砂糖が良く溶けるようにするのと、空気を含ませて飲みやすくする意味があるそうです。

ペルー
ペルーのカフェやレストランでコーヒーを注文すると、空のカップとお湯、そしてこげ茶色の液体が入った小瓶などが運ばれてきます。この液体、実はコーヒーの濃縮液なのです。カップにこれを適量注ぎ、自分の好みになるようにお湯で希釈して飲みます。カフェオレの場合は、お湯のかわりにホットミルクが運ばれてきます。一部のお店では、日本でも見かけるようなコーヒー原料を加工したシロップ、いわゆるコーヒーポーションを使用しているようですが、基本的には1分~1分半でドリッパーをはずした濃いドリップコーヒーとされています。この状態であれば、一般的なコーヒーよりも酸化などによる味の劣化が起こりづらく、一度まとめて淹れておけば長時間取り置いておくことができます。また、飲む際には何倍にも希釈することになるので、熱いお湯やミルクを注げばいつでも熱々のコーヒーを飲むことができるため、保温する手間もコストもかかりません。飲む直前に淹れたような複雑で繊細な香味を期待することはできませんが、インスタントコーヒーや何時間も保温されていたコーヒーに比べれば格段においしいコーヒーを飲むことができるのです。意外と簡単なので、一杯ずつ入れている時間がないほど忙しいけど少しでもおいしいコーヒーを飲みたい、という方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

中東諸国
コーヒーがヨーロッパ諸国で広く飲まれるようになり、煮出した液体から効率よく滓を取り除くためにネルの原型が発明されるまで、コーヒーは基本的に鍋で煮て上澄みを飲むものでした。現在ではあらゆるコーヒー抽出用の器具が使用されていますが、中東諸国ではいまもイブリックという片手鍋を使用した伝統的な方式が残っています。細挽きの粉をお湯で煮出して抽出するイブリックは、一人用のとても小さなものから大家族で使用するまさに鍋のようなものまで様々なサイズのものがあります。材質は伝統的には銅や真鍮が多いのですが、オフィシャルな場で使うような銀製で緻密な細工が施されたものや、手入れが簡単で丈夫なステンレス製、アルミ製などもあるようです。慣れないうちは滓の多いどろどろした液体に戸惑うかもしれませんが、しばらく飲んでいるときれいに濾過されたコーヒーでは物足りなくなってくること請け合いです。また、飲んだ後の粉は残り方や流れ方から占いにも使用されているようです。

イタリア
今では世界各国で飲まれるようになったエスプレッソ。20世紀初頭に発明された際に、少量のコーヒーを小さなカップで飲む習慣のあったイタリアで広く受け入れられ、発展してきました。イタリア国内では、カフェといえばドリッパーやプレスで抽出したものではなくエスプレッソを指し、イタリア人は「自分たちの飲み物」としてエスプレッソの楽しみ方に誇りとこだわりを持っているといわれています。例えば、日本では時間帯に関係なく飲まれているカプチーノですが、イタリアでは朝食時以外に飲まれることはありません。エスプレッソには基本的に砂糖を入れるものとされていますが、その分量やどれくらいかき混ぜるか、残った砂糖をどう楽しむかも人によって意見が分かれます。彼らにとってカフェとは嗜むものであり、自分なりの確立した楽しみ方を持つべきものなのです。

エチオピア
アラビカ種コーヒー発祥の地であるエチオピアでは、コーヒーそのものはもちろん、コーヒーノキの葉を使用したお茶を日常的に飲んでいます。人工的に栽培されたものではなく、森の中に自然に生えているコーヒーの葉を枝ごとひと房とってきて、火にかざしてよく乾燥・焙煎し、専用のポットでよく煮出してスパイスなどを加えてお茶にするのです。近年では、このコーヒーの葉の成分が健康にもよいということで、他の国や地域でも模倣するようになってきているそうです。また、お客さんをもてなす際にはコーヒー豆を使用したセレモニー、カリオモンを行うこともあります。これは、生豆を煎るところからはじめるゆったりとしたティーセレモニーで、しかも2杯から3杯淹れて飲むため2時間以上かかることもあるそうです。お香を焚いた部屋に皆で集まり、お菓子を食べたり煎りあがった豆の香りをかがせてもらったりしながらコーヒーがはいるのを待つそのお茶会は、ある種、日本のお茶席にも通じるものがあるかもしれません。

フランス
フランス式の飲み方と言えば、まず思い浮かぶのがドリップコーヒーにたっぷりのホットミルク(もしくはスチームドミルク)を加えた「カフェオレ」ですね。実際、朝食にはカフェオレが定番、という人がいまでも多く、都市部のホテルに泊まった朝は、カフェオレボウルで提供されるカフェオレでゆっくりと目を覚ます、という憧れのシチュエーションも体験することができるようです。ただ、近年では安価なエスプレッソマシンの普及に伴い、街中でもドリップコーヒーよりエスプレッソを提供する店が増えてきているとのこと。特に、食事の後はイタリア式にエスプレッソに多めの砂糖を加えて、という飲み方が一般的になってきており、コーヒーのつもりで「カフェ」と頼むと「エスプレッソ?コーヒー?」と確認されることも。トラブルを防ぐためには、きかれない場合でもどちらを注文したいのか伝えた方がよいといえますが、こってりとした食事の後の濃厚なエスプレッソは想像以上においしく、病み付きになるという人も多いようなので、一度は試してみても良いかもしれません。

オーストリア
ドリップコーヒーにホイップクリームを乗せる「ウィンナコーヒー」は、一時期日本の喫茶店メニューとして流行ったものの、スパゲッティナポリタンのように本国には存在しない飲み方であるという指摘に押されて、いまではあまり見かけなくなってしまいました。実際、ドリップコーヒーに生クリーム、という取り合わせは無かったようですが、カプチーノの泡のかわりにホイップクリームを乗せる、という飲み方は昔からされており、近年ではエスプレッソをドリップコーヒーに置き換えた方式も普及してきているとのこと。ただし、名前はウィンナコーヒーではなく、アインシュペンナーといいます。砂糖無しなら口当たりまろやかな大人の味わいに。生クリームに砂糖を多めに加えて乗せればデザート風にもなり、どちらの場合もクリームが時間の経過とともにゆっくりと溶け出してきてコーヒーと混ざり、その変化も楽しめます。正式な飲み方ではないから、などと肩肘を張らず、時にはのんびりとした気持ちでホイップクリームが溶けていくのを眺めているのも良いかもしれませんよ。

モロッコ
アフリカ西部の海岸沿いに位置するモロッコは、人口の95%以上がイスラム教徒であり、伝統的にコーヒーが良く飲まれています。モロッコ特有の飲み方としては、黒胡椒やナツメグなどのスパイスをコーヒー豆と一緒に挽いて抽出するスパイスコーヒーが有名です。使用されるスパイスは他にシナモンやカルダモン、しょうがなど多岐にわたり、挽く際ではなく焙煎の仕上げに投入したりそのままカップに直接浮かべたりとバリエーションも豊か。通常のコーヒーの味わいとは一線を画す、エキゾチックな味わいが楽しめます。

インド
灼熱の国土を持つインドでは、淹れたてのコーヒーを冷めないうちに提供して繊細な味や香りを楽しんでもらうよりも、飲みやすくして出す方がより良いサービスと思われるようです。インドの露天やカフェでコーヒーを注文すると、たっぷりの砂糖とミルクを加えたコーヒーを大きめのカップに入れ、もう一つのカップとの間を何度も行ったりきたりさせることで温度を下げる様子を見せてもらうことができます。時には曲芸的に感じるほどの十分な落差をつけて、幾度もカップからカップへと繰り返し注ぐことによって、高温と乾燥でからからになった口でも飲みやすいくらいに温度が下がり、さらにたっぷりの空気を含むことで口当たりがまろやかになるとされています。他の国で同じことをしても、ぬるくて泡だったむやみに甘いコーヒーになるだけで、あまりおいしいとは感じられません。ある意味、インドでしか飲むことのできない、貴重な味わいのコーヒーであるといえるのではないでしょうか。

ベトナム
ベトナムには、フランスの支配を受けていた当時の面影を残すカフェがあちこちに残っています。そして、それらのカフェで提供されるベトナムならではのコーヒーといえば、カフェ・フィンで入れるベトナムコーヒーです。製品によっては少量のコーヒーを抽出するのに10分以上もかかるカフェ・フィンで淹れた、少しどろっとしたマッディなコーヒーにコンデンスミルクを合わせたこの飲み物。最初はちょっと驚くかもしれませんが、慣れると病みつきになるおいしさです。「濃い目のコーヒーにミルクを加える」というフランス式の飲み方を、気温が高く流通の不便なベトナムで模倣した結果生まれたこの飲み方は、今ではベトナム独自の味として親しまれています。また、近年ではこれをさらに発展させ、卵とコンデンスミルクと砂糖を混ぜ合わせて泡立てコーヒーに乗せる「エッグコーヒー」も、人気のメニューとなっているようです。カスタードのようなクリームがコーヒーの苦味や酸味をおさえ、ミルクセーキのコーヒー版のようなおいしさを楽しめます。ただし、近代化が進むとはいえ真冬でも20度を下回ることのない国のこと。生卵を使用したエッグコーヒーの注文は(お店の選定や健康状態の見極めも含めて)慎重に行いましょう。

マレーシア
マレーシアでは、コーヒー豆と一緒に砂糖や小麦などを焙煎することで、コーヒーに独特の香味をつける方式が一般的です。そのうち、少量の砂糖とマーガリンだけを使用し、「相対的にはコーヒー豆だけに近い」ものを「ホワイトコーヒー」と呼びます。この場合の「ホワイト」は、まっさらな、とか無添加の、という意味で、日本のブラックコーヒーに近いイメージのようです。少量とはいえ、溶けて焦げた砂糖の香ばしさやマーガリンのコクが加わり、抽出したコーヒーそのものもやや白っぽい仕上がりになるとのこと。さらに高級なものではコンデンスミルクやスパイスなどが使用され、複雑な味わいを楽しむことができるようです。近年では、その風味を再現したインスタントコーヒーもいろいろと販売されており、地元のスーパーなどはもちろん、観光客向けのお土産品としても人気を博しています。

ロシア
あまりコーヒーが飲まれているような印象がないロシアですが、実はコーヒーの年間消費量は日本に次いで第5位(2014年)。人口比で考えても、かなりメジャーな飲み物であることがわかります。ロシア流の飲み方は、ドリップコーヒーにココアとミルクを加えたカフェモカのような形式がもっとも有名ですが、さらにここに卵黄やウォッカなどを加えることもあるとのこと。ミルクやココアのコクとウォッカの刺激を卵黄が包み込む、かなり濃厚な飲み物になります。ロシアの厳しい寒さの中では、単なるホットコーヒーくらいでは暖を取れないのかもしれませんね。また、地域によっては砂糖だけを加えたコーヒーにスライスしたフルーツを乗せるところもあるそうです。

インドネシア
マンデリンやトラジャなど、日本でもおいしいコーヒーの有名な産地として認識されているインドネシア。コーヒーは現地でもよく飲まれており、年間消費量は世界第7位です。その飲み方はちょっと独特で、大きなグラスに直接コーヒー粉とたっぷりの砂糖を入れ、お湯を注いでかき混ぜます。しばらく待つと粉が沈んで来るので、上面に息を吹きかけて飲み口を確保しながら上澄みを飲みます。コーヒーカップではなく大きめのグラスを使用するところがポイント。一見するとかなり適当な淹れ方に思えますが、最初に砂糖も入れてしまうことと濾過しないことを除けば、実はフレンチプレスと同じ抽出方法で、コーヒーの旨みや酸味を楽しむのには適した方式だと言えます。お湯が熱いうちは粉がジャンピングをおこしてぐるぐる対流するので、5分から時には10分以上のんびりと待たねばなりません。みんなでおしゃべりをしたり本を読んだり、あるいはぼーっとしながらコーヒーの出来上がりを待つこの時間は、まさにインドネシアらしいのんびりとした雰囲気を味わわせてくれます。

台湾
中国と同じくお茶のイメージの強い台湾ですが、実は数十年前から親しまれ続けているコーヒーの飲み方があります。それは、「コーヒーと紅茶を一定の割合で混ぜ合わせる」というもの。ちょっと聞いただけではとてもおいしそうには感じられませんし、実際適当に作ると大変おいしくないのですが、淹れ方や混合比によっては絶妙なおいしさを引き出すことができるそうです。その作り方はお店や人によって様々で、別々に抽出してから混ぜ合わせる方式の他、茶葉とコーヒー粉を合わせてドリッパーにかける方式や、一方の抽出液でもう片方を抽出する方式などが代表的とされています。台湾ではホット、アイス、コンデンスミルク入りやスパイス入りなど、いろいろなバリエーションで老若男女に楽しまれているというこのメニュー。自分なりの適正な混合比を見つけられるか、一度チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

日本
普段から見慣れているためあまり特殊だと感じることは無いと思いますが、実は日本でのコーヒーの飲まれ方も、世界的に見れば独特の部分がいくつもあります。例えば喫茶店や家庭などで普通に行われている「一杯ずつハンドドリップで提供する」という方式。コーヒー豆の種類や好みによって挽き方を変えたり、最初に蒸らしてから慎重にお湯を注ぐなどの細かい決まりごとをみんなが当然のように守って淹れている、というのは実は最近まで日本以外では一般的ではありませんでした。ただ、今世紀に入ってからのサードウェーブの広まりや、スペシャルティコーヒーなど産地と品種ごとに味わいの違いを楽しむ風潮から、専門店を中心に少しずつ「日本式」が浸透しつつあるようです。また、ウィンナコーヒーやアメリカンなど、各国のコーヒーの飲み方の特徴を誇張・改変し、国や都市の名前をつけて普及させてしまうというのも、特に昭和時代の、日本におけるコーヒー拡大期によく見られた特徴といえます。それらの品質や特徴の追求とは逆の路線としては、缶コーヒーなどのコーヒー飲料が上げられるでしょう。もはや完全に本来のコーヒーとは別の飲み物としての進化を遂げたそれらコーヒー系飲料は年間約871万klも製造・販売されており、忙しいビジネスマンから手軽さを求める学生、年配層に至るまで、あらゆる人々に利用されています。ホットで淹れたコーヒーを氷などで積極的に冷やして飲む「アイスコーヒー」と同様、まだまだ他の国では奇異な目で見られがちな日本のコーヒー飲料ですが、その独特のおいしさや気軽に楽しめる利便性から、海外でもじわじわと勢力範囲を広げつつあるとのこと。他の文化と同じように、「日本式のコーヒー」が注目を集めるようになる日も遠くないかもしれません。


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